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4.すべての科学技術の牽引力としての電子情報通信技術

 近年進歩が著しい科学技術には色々な分野がある。また経済成長可能性を追求するものとして社会的に重視されている分野もある。 

 日本の科学技術基本計画においてはライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテク・材料を重点4分野としている。多くの分野の技術課題を見ても電子情報通信技術はそれ自体のみならず多くの分野において技術進歩の牽引力となっていることが分かる。例えばライフサイエンスを進展させたのはゲノムの分析をはじめとして、大量の試験体を高速に解析する技術に負うところが多い。たんぱく質の設計法においてもバイオインフォマティックスの進展は重要である。情報技術を駆使した解析、シミュレーションその他の手法が進展したことがライフサイエンスの分野での多くのブレークスルーにつながっている。

図5 2015年までに積極的に進めるべき融合・連携関係

 このようなことは例えば、文部科学省科学技術政策研究所が行った技術予測調査等、多くの調査でも示されている。図5は上記調査の中で各分野が融合・連携を積極的に進めるべき分野の関連図である(4)。図では矢印の方向で、ある分野が他の分野を必要としていることを表現している。情報通信の発展のためには社会技術、エレクトロニクスが重要ではあるが、他の多くの分野はその発展のために情報通信技術を重要視していることは明らかである。この調査では2015年までの発展には情報通信技術が重要であり、2016年から2025年には、環境技術、ライフサイエンスが連携すべき重要な分野とされているが、これは環境的制約の大きさが各分野の発展の阻害要因となることを想定したものと考えられる。

 いずれの時代にも社会の発展は経済の発展を伴い、これは結果としてエネルギーと資源の大量消費に結び付き、環境問題を生じて来た。環境の問題を考えるとき、経済の発展は頭打ちになるというのが、現代の閉塞感の大きな原因である。

 電子情報通信の技術はそれに必要なエネルギーは無視できないにせよ、本質的にエネルギーによって付加価値を求めるものではない。さらに仮想化技術により、移動を伴わずに共同作業し、コミュニケーションを図ることによって、従来移動に費やされていたエネルギーを不要にして、環境問題を軽減することが出来る。電子情報通信技術で付加価値をつけることによって、環境、エネルギーの制約を受けることのない大きな成長の可能性がある。電子情報通信技術による新しい価値体系と産業が求められている。

 科学技術の重要性を認識して我が国では科学技術基本計画の下に年間3.8兆にも及ぶ科学技術予算が組まれている。情報通信は4重点分野の中に位置づけられている。しかし4重点分野の中で政府の科学技術予算配分には大小があり、ライフサイエンスの22%に対して情報通信は次第に増加しているとは言え、8.5%に過ぎない(5)。将来の技術全体の牽引力となる技術として、より活発な研究が行われることを期待したい。

5.グローバル時代の学会の役割

図6 SCIによる各国の論文産出2001年

 将来の社会を支える情報通信分野について、学術的な貢献を通して社会の発展に資することが学会の役割であることは当然である。グローバル化が進む現代においては、学会の活動もグローバルに展開することが求められる。図6は文部科学省科学技術政策研究所がScience Citation Index(SCI)を元に分析した論文産出の国際比較である。図には引用論文で評価したトップ10%の論文と全論文の国別の産出量が示されている(6)。

 国は論文を産出した組織の所属国を示しており、著者がその国の国籍を持っていることは意味しない。アメリカの論文産出が大きいことはよく知られているが、日本がそれに次ぐ地位を占めていることも特筆してよい。ただこの論文の数にはSCIで扱っている英文論文しか入っていない。英文の論文以外を無視するのはSCIの性質上やむをえないことであるが、各国語の論文を数に入れれば、この数字上の差は大幅に変化するものと考えられる。

 残念なことに国の科学技術政策ではSCIが過度に重視され、日本語の論文いついてはその総数すらも文部科学省データとして把握していない。少なくとも日本語論文に関する統計データが広く活用できるような環境の整備を期待したい。

 各国において、その国語で学術論文を生産し続けることはますます困難になりつつある時、電子情報通信学会が日本語論文を生産し続ける意味は大きく、その継続を可能にする会員各位のご支援をお願いするとともに、これがより大きい世界的貢献と評価されるような仕組みの構築に努力したい。

 さらに産業界について考えれば、産業界のグローバル化は、貿易において各国で産出した工業製品を輸出するパターンから、海外で産出する、あるいは海外でサービス業を行うというパターンに大きく変化している。

 日本について考えれば、日本の状況を理解し、日本語でコミュニケーションが可能な人材が各国にいることは大きな助けになる。アメリカにおけるグローバル化の成功の原因として、必ずしも十分意識されてはいないが、国際的語学教育政策、留学生政策と学会を通しての卒業生への継続的な情報の提供が、人材供給の基盤となり、産業の国際進出の基礎になっていることは見逃せない要因であり、なかでも学会の役割は大きい。欧州各国でもこうした語学教育、留学生政策に努力がみられる。

 日本では語学等英語国に比べ上記の条件を実現するには、大きなハイディキャップは存在することは当然であるが、その一部でも実現する努力は着実に進めなければならない。こうした努力は産業界の発展のための努力であり、産業界との協力なしには困難である。日本の産業界も学術論文の産出のみならず、各種の発信の基礎条件を形成するものとして学会の意義を理解し、こうした作業に御協力頂きたいと考えている。このような理解の努力が各国で行われることによって国際的相互理解が深まり平和なグローバル社会が出現することを期待したい。

 電子情報通信学会は英文誌の国際化では顕著な成功を収めている。これを基礎として当学会では、主としてアジアにおける会員を増強し、各種の情報発信を強化してゆくために海外代表会員制度を平成15年から開始している。こうした活動を電子情報通信産業のグローバル化の一助として活用するために、各位の積極的な参加をお願いしたい。

6.あとがき

 電子情報通信学会の活動を通して、明るい21世紀の日本を形成してゆくためには、学会に多くの方々が参画され、明るい夢を持ちながら、技術の発展に協力してゆくことが重要である。このような活動を通して、産業界を活性化し、多くの若者に夢を与えることが出来れば、我が国の未来派明るい。

 残念なことに多くの先進国では社会の発展に閉塞感が付きまとっている。これが若者の理工系離れを生じ、技術の将来を不透明なものとしがちである。

 農業時代から工業時代への移行では、GDPが1桁以上も増えた。その後の変化も加え、2000年の日本における産出は1次産業全体でもGDPは1.3%に過ぎない。今後工業時代から情報時代の移行でGDPはさらに1桁以上増大する可能性がある。これからの経済成長は資源、環境の制約を受けることなく成長を可能にする電子情報通信技術によるしかない。21世紀中に工業のGDPに占める比率は低下を補って、社会を発展させるのは電子情報通信技術である。

 明るい21世紀を作る夢を語りながら電子情報通信学会の発展に尽力したいと考えている。会員各位の積極的参加とアイデアを期待して就任の挨拶としたい。

文献

(1) 総務省:次世代IPインフラ研究会第1次報告書(2004年6月)

(2) OECD通信白書2003 p60 (2003年9月)

(3) 科学技術政策研究所:科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査 (2005年3月)

(4) 科学技術政策研究所:第1期及び第2期科学技術基本計画期間中の政府研究開発投資の内容分析 p125 (2005年3月)

(5)科学技術政策研究所:科学技術研究のアウトプットの定置的及び定性的評価 p190 (2005年3月)